2008年12月26日

『シラノ・ド・ベルジュラック』のように

 クリスマスの夜、コメディー・フランセーズの『シラノ・ド・ベルジュラック』を観てきた。今回は2度目なので、前回よりもはるかに良く解った。しかし、なんと複雑でしかもよくできた話だろう。人間の浅はかさとそこに皮肉のように現れる人間の深い真理、そして人間の心の純粋さがそれを支えている。

 美しい娘ロクサンは、若くハンサムなクリスチャンの「外観」に惚れる。クリスチャンの代わりにシラノが情にあふれる手紙を書き続けるとロクサンの気持ちは変わり、その「手紙の主」の「本当の心」を愛するようになる。ロクサンはクリスチャンの(手紙に表現された)「内面」を愛し始めるわけだが、それを表したのはクリスチャンでなく醜いシラノだ。クリスチャンの「内面」を愛することは、(知らずに)シラノを愛することに等しい。クリスチャンの方は、自分の「内面」が愛されれば、それは自分が愛されていることにならないことに気づく。ロクサンと一緒にいれば、自分の「内面」に嫉妬し、「外観」と「内面」の葛藤を抱えて生きていかなければならない。

 シラノは自分の文章でロクサンの心を勝ち得たことに満足するが、いま本当の事実を言っても、シラノの醜い外観がそのまま受け入れられることはないだろうと信じ、またロクサンの「幸せ」を壊すのを躊躇する……。

 ただし、納得いかない作りではある。ロクサンのクリスチャンの「外観」への恋心、それは彼女のしごく浅はかな人間性を示すだろう。自分でも、後に、それは「一種の浮気心だった」と告白する。「中味」のないクリスチャンといても気づかないのもどうかと思うが、「手紙の主」がシラノだとわかった後も、ロクサンの反応はとても皮相的なものに見える。そんな表面的な女を、これだけの詩情と慧眼と気概を持ったシラノが愛するのだろうか――かなり理解に苦しむが、そこは、劇の作り方次第なのか。

 シラノが、最後のセリフ「(全てが奪われても残るのは)オレの羽飾り(暗喩で「心意気」「堂々とした態度」という意味もある)だ」を叫んで倒れると、照明が落ちて幕が下がり、そのセリフが観客の心に染み入るのを待つように、しばらく静寂が続いた。そして幕が上がると同時に、静かだがしっかりとした拍手がずっとずっと鳴り続いた。観客はしばらく立ち上がらず、拍手を続けた。コメディー・フランセーズでも珍しいことだ。それほど、今日のシラノの役はすばらしかったと思う。

 心意気だけでも、この男のように生きてみたいものだ。
posted by ろじ at 09:19| パリ ☀ | TrackBack(0) | 文化・芸能 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月23日

ミディ・ピレネー旅行

 昨夜遅く、フランス南のミディ・ピレネー地方への旅行から帰ってきた。とても印象深い旅行だった。(写真のアップはまたいずれの機会に。)

 山深い谷あいに時間の流れを超越したようにひっそりとロマネスク教会を抱いて座っている石の村コンク、空中に浮かぶように平野の中に忽然と丘の上に立つ中世の街コルド・シュール・シエル――、石畳の坂、朝方そこに響く足音、石作りの煙突から立ち上る白い煙、それらの村に住む親切で謙虚な人たち、そして、険しい山間に点在し堅固な宗教的信念をいまも漂わせるカタリ派の城の廃墟など、どの場所もこころに残るものであった。

 南にあるフランス第4の都市トゥルーズを拠点に、ロマネスクの教会と人里離れた村を求めて1000キロ近い距離を運転し、夜はかつての旅籠のような簡素な宿に泊まる――そんなバカンスとはほど遠い旅行だったが、行って本当に良かったと思う。また、車で山間を走るので雪がちょっと心配だったが、最初のうち雨が降ったものの、幸い雪にはならず比較的快適な旅だった。

 ただし、トゥルーズからの帰途がたいへんであった。飛行機はエア・フランスのストが怖いので、今回は片道5時間半かけても列車で行くことにしたのだが、帰りになんとフランス国鉄SNCFのストに出くわすはめになったのだ。

 最終日の朝、カルカッソンヌの宿でトゥルーズ〜パリ間の列車のストのニュースを見た時は、その日のうちに帰れるのか、それとももう一泊トゥルーズにホテルを探すべきかなど、さすがにどうしたものか悩んだのである。幸い予約した列車は運休にならなかったが、トゥルーズ駅は、振り替え列車のキップを手に入れようとする人々がカウンターに殺到して、大変な混乱であった。

 鉄道の混乱といえば、以前ボルドーに行った時に、乗っていた列車が途中で停まり、散々な目にあっている。炎天下でクーラーもない列車で、しかも窓は車体の片側しか開かなかった。そこに2時間半閉じ込められた。「20分ほどで、すぐ出る」なぞというフランス人の発言はなんの根拠もないことを学んだのも、その時だ。もちろん、その後の予定はメチャクチャだった。
posted by ろじ at 00:00| パリ 🌁 | TrackBack(0) | フランス・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月18日

近況

 最近は、面白いことがたくさん起こっているのに、忙しくて書く暇がない。

 しかも、休暇に入るので、明日(いや、いま2時だから、今日)の朝早くから、フランス南のミディ・ピレネー地方に散在するロマネスク教会を見学する旅行に出る。車で山間を走るのだが、雪がちょっと心配である。

 飛行機のエア・フランスはストが怖いので、今回は列車で5時間半の旅である。

 書きたいことは山ほどある。特に、このクリスマスの時期に、昔書いた童話を手直しして載せたいと思っているが、旅行から帰るとすぐクリスマスだ。それでも、できれば載せたいと考えている。

 次回は次の月曜以降になります。
posted by ろじ at 10:16| パリ | TrackBack(0) | 日々のなにげない記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月11日

ポーチ

 例の家具屋にたち寄ったら、中でOCは一生懸命ミシンで何かを縫っている。

 ドアのガラスを叩くと、入って来いという合図をした。縫ったばかりの水色と灰色のポーチを示して「これ、どう思いますか?」と訊く。
なかなかシックな色合いだ。鮮やかなヒモも付いている。仕事場にあった端布を使って、こんななかなかシャレたものを作ってしまうのか。

「とても良いと思う」と答えると、嬉しそうな顔をした。
「これを売るのかい?」ここに残って欲しいと思っていたから、こうしたものでビジネスの支えになれば良い。しかし、OCは、
「分らないわ、どうするのか。ただ縫ってるの」
と応えた。
「こういうのが好きなんです」。

「才能があると思うよ。売れるようになればいい、いや売れなくても、ここに飾るだけでも……」。家具修理の客が来る助けになると思うと言おうとして、それではあまりに彼女が仕事に持つプライドに対して失礼だろうと思った。
「ずいぶん違った雰囲気になると思う」。
 そう言うと、「そうでしょうか。分らないわ」と笑っただけだった。
他の布を出してきてヒモの色の組み合わせを示し、「どう思うか」と訊く。

 しばらく話をしながら、この仕事場ももう少しきれいに整頓し、何かを飾るようにしたら客も来るだろうに、と思わざるをえなかった。
posted by ろじ at 00:00| パリ 🌁 | TrackBack(0) | 日々のなにげない記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月09日

この冬、2度目の雪

 このところやけに寒いと思っていたが、昼頃から雪。一ヶ月ほど前にも降ったが、今度はもっと大きなボタン雪である。しかも、一時間ほどすると、さらに激しく降り出した。今年はホワイト・クリスマスかもしれない――

 と思ったら、1時間ほどですぐ雨に変わり、今年もあまり冬らしい冬は望めないようだ。
posted by ろじ at 00:00| パリ 🌁 | TrackBack(0) | フランス・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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